「…という訳で、お嬢様に相応しい人材を三名選出させいただきました。 候補者たちは本日、 ラルフローレン様より出された課題の『答え』を持って 玉座の前で待機しています。」
「…そういう大事な話は、当事者抜きで進めないでほしいんですけど?」
突然の執事の説明に、お嬢様と呼ばれた少女―ちょうどクレリックとしての 転職の試練を終え、城へ帰還したばかりであった―がじと目で抗議する。

「確かに…お嬢様が転職のために外出なさっていたからとはいえ、勝手に 話を進めてしまって申し訳ありませんでした。しかし、ラルフローレン様が 折角お嬢様のことを思ってやったことです。折角彼らが持ってきた『答え』 も見ずに約束を反故にされては、城主としての権威までが問題に発展して しまうかもしれません。どうぞお察しください。」
―確かに正論ですが、その話を持ち出したら絶対に反対していたでしょう?
執事は心の中で本音を言いながらも、目の前で愚痴をこぼす少女をなだめる。
「もう、お父様ったら…そこまで話が進められてしまったのなら仕方ないわね。 確かにウォルマンが言うとおり、このまま放棄したらお父様のお顔に泥を塗る ことになるし、とりあえず三名に会ってみるわ。」
エルブンミスリルローブ―全身を黄色一色で染め上げ、駆け出しの冒険者 がよく愛好することから『ひよこセット』と呼ばれる装備―を身につけた少女は、 少し考えた後、結局執事の提案を受け入れることにしたようだった。

―この勝気な性格は間違いなく母親譲りですね。
今は亡き少女の母親に想いを馳せながら、ウォルマンは苦笑する。少女の 母親は、容姿端麗で自由奔放、そして何よりもこの戦乱の時代の中にあって 常に笑顔を絶やさない太陽のような存在だった。当然、当時の彼が所属して いた血盟の内でも人気が高かった。誰が彼女の心を射止めるかという話題で、 血盟内の男たちは何度も盛り上がったものだ。かく言うウォルマンも、彼女 が原因で当時同じ血盟員だったパラディンに幾度となく決闘状を叩きつけた。 その彼が後にウォルマンの主となり、同時に無二の親友となったのだから、 人生とは本当に何が縁になるか分からないものだ。
「ほら、ウォルマン!早く行きましょう!ぼーっとしてると置いていくわよ?」
少女はウォルマンが物思いにふけっているうちに既に仕度を終えたようで、 歳相応の少女の顔でウォルマンを急かす。先ほどの不機嫌そうな顔は既に なく、今はむしろどこか楽しげにすら見える。おそらく、父親が一体どんな課題 を出したのかということが気になっているのだろう。

―こういうところも、母親に本当によく似ている。
彼がかつて愛した女性の面影を背負った少女の後姿を見ながら、 ウォルマンはゆっくりと親友の下へと向かうことにした。