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さっぱりわからん召喚師学入門―その壱―


しょくぎょう ―げふ 2 【職業】
生計を維持するために日常している仕事。生業。職。
〜IN ADEN〜
  1. 生計を維持するために日常している仕事。生業。職。
  2. 冒険者たち個々人の戦闘スタイルにあわせて名付けられた名称。 似たような戦闘スタイルでも、種族ごとに異なる名称となっている。

「...ここら辺は、すっかりオークの棲み家になってるな。」
周囲を見回しながら、敵の戦力を確認する。
 ...などとかっこいいことを言ってはみるものの、最近15歳になったばかりの俺では、 敵にとっては「戦力」にすらならない。どちらかといえば、奴等にとっては恰好の「餌」 という感じだろう。
 俺たちダークエルフは、通常8歳からは基礎的な訓練を開始する。17歳になった時点でようやく 「戦士見習い」として認められ、武器を持って外に出ることを認められる。戦闘とは、一朝一夕で 極めることができるようになるものでもない。気が遠くなるほどの基礎的な訓練を繰り返すことに よって、ようやくものにできるのである。ヒューマンのように数が多ければもっと若くから実際の 戦闘を行えるのかもしれないが、俺たちの種族は数が少ないために、若い者達は死の危険からでき る限り遠ざけられている。
 ...だが、俺は17歳になるまでじっと神殿で訓練を繰り返せるほど気の長い性格ではなかった。
こうしている間にも、憎きエルフどもは安穏とした自堕落な生活を続け、脆弱で下等なヒューマン どもは、その繁殖力を利用して世界中に勢力を伸ばし、世界がまるで奴等の所有物であるように 我が物顔で闊歩している。この体にかかった「昼間の活動能力低下」の呪いさえなければ、奴等の下へと今す ぐ戦いを挑み、屠ってやるところだ。だが、戦士として認められるまで、武器も持てなければその 呪いに対抗するための魔法も施されない。
「...17歳になるまでは、こうして夜の闇に紛れ、奴等が闊歩する様を見てることしかできないなん てな...」
 歯痒い思いで周囲のオークどもを見つめる。こんな下等生物たちにさえ手をこまねいている自分に ほとほと嫌気がさしてくる。
「...あと二年か、くそっ...長いな。」
 来月になれば本格的な戦士としての訓練が開始される。そこでまず自らの道を、簡単に言えば戦士に なるか魔法使いになるかを決定するのだ。ここで選択する道によって、シーレンの子孫としてどれだけ 多くの敵を屠ることができるかが決定するといってもいい。
圧倒的な魔力で敵を殲滅するか、高速の剣技、一撃必殺の弓で敵を粉砕するか...
「むぅ...とりあえず、シリエンナイトとシリエンエルダーはパスだな。」
 『シーレンの騎士』であるシリエンナイトは、その驚異的な防御力をもって敵陣の只中に行き、 敵の攻撃に耐え忍ぶいわば「壁」のような役割を持つ。
 それに対し、『シーレンに選ばれし知恵者』であるシリエンエルダーは、通常治癒者、ヒーラーとの称される。 シーレンによって授けられた回復魔法によって、味方の命を紡ぎ、絶望的な窮地からも戦況を覆す。
 だが、この二つの職業は火力、つまり敵を倒すという点からいうと、それほど強くない。この内に 宿る憎しみを消し去るには、少々役不足のように思われる。
「ブレードダンサーも悪くないが...」
 ブレードダンサーはその名のとおり『刃とともに踊る者』で、二刀を駆使し、まるで舞うようにして戦陣の只中へと切り込む。 彼らの踊りは味方の戦意を増幅させ、その潜在能力を最高にまで引き上げるために、能力付与者という意味の バッファーとも呼ばれる。
 だが、本来短剣と弓、そして魔法を主体とするダークエルフにとって、二刀を使いこなすということ は容易ではない。それに、一瞬の破壊力という点では、やや力不足な感が否めない。
「ファントムサマナー...は...話にならんな。」
 『影を召喚せし者』―ファントムサマナーは、召喚職と呼ばれ、他の職とは少々戦闘スタイルが異なる。 「サモン」という召喚獣を繰り、敵を倒す。サモンは確かに強力であるが、魔道師としての能力をサモンに奪われ、 大幅に制限される。対人戦において本人の能力が低いということは致命的だ。そんなことでは、エルフやヒューマンの 打倒という一族の夢は果たせない。
「やはり...ファントムレンジャーかアビスウォーカー、さもなくばスペルハウラーのどれかだな。」
 ファントムレンジャー、ダークエルフの得意とする弓を主体とし、遠距離からの攻撃を得意とする。 彼らの矢からは誰も逃れることはできず、狙われれば最後、一撃の下で冥府へと誘われる。戦場を駆け巡り 臨機応変に戦う彼らは、まさに『幻影の遊撃兵』そのものである。
 アビスウォーカー―『深淵を歩く者』と称される彼らは、その名の通り深淵の闇の中を駆け巡り、あらゆる敵に忍び寄る。 近距離からの無慈悲なる一撃は、敵に自らの命が絶たれたことすら気づかせない。 暗殺を専門とする彼らにとって、乱戦こそが活躍の場となる。
 圧倒的な魔力をもって敵の命を奪うスペルハウラー。『呪文を吼えし者』である彼らの魔法の威力は、 ヒューマンやエルフなどの他の種族を圧倒し、足元にも及ばせない。 また、毒や眠りといったさまざまな妨害魔法を駆使し、敵を翻弄する。体力的な問題さえなんとかできれば、 その魔力は一国を滅ぼせるほどである。
「...くっくっく...もう少し、もう少しだ!」
 まだ見ぬ敵達に魔法を放ち、あるいは死をもたらす一撃を繰り出すさまを想像すると、自然と口元に笑みが浮かんでくる。 一族の憎しみを晴らすその日が来るのももうすぐだ...
己の内に秘めた破壊衝動に駆られ、思わず近くにあった木に一撃を放つ。
―どかっ!
自分が思っていた以上に大きな音が鳴り響く。
―しまった!
そう思ってすぐに周囲を見回す。ここはオークの棲み家、敵陣の真っ只中だ。今の音を聞かれてはまずい。 今にも飛び出そうな心臓を必死に鎮め、俺は周囲を見回す――――

―年月日不明:あるダークエルフの青年の日記より―

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