■■―さっぱりわからん召喚師学入門―■■ 〜異種族との対話編[前編]〜
    背丈や格好からすると彼女はどうやらドワーフらしいが、この声と顔には聞
   き覚えがない。これらのことから推測すると知り合いのドワーフではないよう
   だが、とりあえず助け舟を出してくれたことには変わりないので黙っておくこ
   とにする。
   

   「武器屋のクリミスさんから依頼を受けて、素材とか消耗品とかを届けに来た
   のですけど、ちょっと手違いがあって量を間違えてしまって。それでダークエル
   フさんにお願いして足りなかった消耗品を持ってきてもらったんですよ〜。」
   にっこりと警備兵に笑顔を見せ、少女が説明する。
   「………。」
   「そ…そうそう!本当は町外れで会う予定だったんですが、待ち合わせ時間
   になっても彼女が来なかったので…心配になって様子を窺っていたんです。」
    胡散臭そうな表情をこちらに向けた警備兵に、適当な嘘を並べ立てる。
   「そそ、もうこんなところまで来ちゃったことだし、荷物もせっかくだから安全な
   場所でゆっくり確認したいですし、入れてもらっても構いませんか?」
   

   「……いいだろう、入れ。だがここは貴様など歓迎していないことを忘れるな。
   用事が終わったらさっさと出て行くことだな。」
   「はーい、お騒がせしてすみませんでした〜。行きましょう〜。」
    言われるがまま少女に手を引かれ、その場を後にする。背後から痛いほど
   視線を感じることから察するに、警備兵がまだ警戒を解いていないのだろう。
   彼らの持ち場から十分に距離をとるまで、大人しく少女の案内に身を任せる
   ことにする。
   



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   「…ここらへんまで来たらもう大丈夫ですよね。」
   前を歩く少女が足を止めて振り返る。種族的な特徴だろうか、ドワーフ族とい
   うものはこんな少女の頃からこういった交渉などに滅法強いらしい。
   

   「見ず知らずなのに申し訳ない。本当に助かりました。」
    とりあえず、助けられたことに対して素直に礼を述べる。『プライドが高いの
   と、礼を言えないのはまったく別物。礼を失するものは大抵長生きできない。』
   というのが師匠の言だ。もっとも、僕はダークエルフの一族ではあまりプライド
   が高くないほうだと思うが。
   

   「いいえ〜、困ったときはお互い様ですよ。それよりダークエルフさんがこんな
   場所まで来るなんて珍しいですね。」
   「えぇ、ちょっと用事がありまして…あ、物騒なことではないですよ?」
    他の種族とはいえ、エルフとダークエルフが敵対していることを知らないわけ
   ではない。折角助けてもらったのだから誤解のないようにしなければ。
   「それを聞いて安心しました〜。もし悪い人だったら私もこの里から追い出され
   ちゃうところです。」
    あははと笑いながら少女が返事をする。この裏表がなさそうな表情も交渉の
   一つの武器なのだろうか。もともと攻撃的な顔立ちをしているダークエルフの
   生まれとしては、少し羨ましい。
   

   「あはは…ところで、どうして僕を助けてくれたんですか?」
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