■■―さっぱりわからん召喚師学入門―■■ 〜異種族との対話編[前編]〜 「ん?いや、別に…困っているみたいだなーと思って。あっと、私はこれから 寄るところがあるのでこの辺で失礼させていただきます。また縁があれば会 いましょう〜。」 急な用事でも思い出したのだろう。少女はぺこりとお辞儀をすると、足早に駆 け出していった。 ―…ドワーフ族は、全員が全員損得勘定だけで動くわけじゃないんですね。 とてとてと走り去っていく少女の背中にもう一度深くお辞儀をしながら、心の 中でドワーフ族に+20点しておくことにした。 「…………これが…………世界樹……」 そのあまりの壮大さに、二の句が継げられない。里に入る前からその全貌 を遠くから眺めてはいたが、実際に近くまで来るとその高さは天にまで届くか と思われるほどだ。圧倒的な存在感。具現した神秘。僕が知っている語彙の どれを紡いでも、霞んでしまうほどの存在。 休戦しているとはいえ、僕がいまだ敵対関係にあるエルフの里に訪れるな どという危険を冒した理由がこの世界樹にある。エルフの里の中央に鎮座す るこの大木は、エルフたちの生命の源とされている。それはつまり、今でこそ 袂を分かったとはいえ、ダークエルフにとっても世界樹という存在は特別だと いうことを意味している。『自分自身のルーツを確認するということは、自分自 身を正しく認識するということと同等だ』という師匠の言葉に従って、中立地帯 を通過してわざわざ里に出向いたというわけだ。 |