■■―さっぱりわからん召喚師学入門―■■ 〜異種族との対話編[前編]〜
   ―あ、気持ちいいな。
    大木の陰に足を踏みいれ、目を閉じながら深く呼吸をする。地面の水が心地
   よく足を刺激し、大木の作った影が日に当てられた身体をゆっくり癒していく。
   葉の香りが鼻腔を刺激し、魔力の充足していくのを感じる。なるほど、まさに
   生命の源と呼ぶに相応しい存在だ。
   

   ―ん〜…とりあえず街の中でも見て回ることにしましょうかね。
    休戦状態とはいえ、彼らにとって僕は敵地に単身乗り込んできた不審人物
   以外の何者でもない。名残惜しいが、世界樹も実際に確認することができた
   ことだしここは早々に立ち去るのが得策だろう。傍らで胡散臭そうな表情を向
   けるエルフの女性の、世界樹の前でぼーっと突っ立っている褐色の異物に対
   する敵意の視線に耐え切れずに、僕はそそくさと移動を開始することにした。
   

   

   「この神聖な土地に、貴方たちのような不浄の存在に長居をしてもらいたくは
   ありませんね。警備兵が通行を許可したのであれば、何かしら仕方のない事
   情があったのでしょうけど。どのようなご用件でこの聖域に訪れたかは存じ上
   げませんが、出来る限り迅速に退席していただきたいものです。」
    雑貨屋に入って商品を見物していると、5分と経たないうちに店主がそう話し
   かけてきた。まるで汚物でも見るかのような目つき、口調こそ丁寧だが、要は
   先ほどの警備兵と同じことを言っているわけだ。家庭内害虫かよ、まったく。
   

    折角ここまで来たんだし、エルフの文献を2,3読ませてくれてもバチは当た
   



   >TOP >1 >2 >3 >4 >5 >6 >7 >8
   らないと思うのですけどね。まぁ、そんなこと言えば今度こそ命と引き換えに
   なりかねないので、毒づくのは心の中で止めておくが。
   
   「あはは、すいません。今日中には出て行きますし、別に悪いことを企んでい
   るないので大目に見てください。」
    相手の神経を逆撫でしてもいいことはないので、なるべく穏やかな口調と
   表情を作って返事をする。刺々しい言葉が心に刺さって痛いので、どちらかと
   言うと痛みを堪えている口調と表情になっているかもしれないけど。
   

   ―どんっ。
   

   「おわっ!?」
   店を出ると同時に胸元辺りに衝撃を受け、思わず軽くよろめいて後退する。
   ―どさどさどさっ!
   と、衝撃の後に物が、しかも結構大量に落ちる音。どうやら誰かとぶつかって
   しまったらしい。衝撃のあった方向を確認すると、そこには案の定、床に散ら
   ばった大量の荷物と持ち主らしき少女の姿があった。
   「ありゃりゃ、すみません…。」
   「いえ、こちらこそ前方不注意でしたので…。」
   散らばった荷物を拾いながら謝る。拾った荷物を少女に渡す…って、この子は
   さっき助けてくれた娘じゃないか?
   「あの、さっきはどうもありがとうございました。」
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