■■―さっぱりわからん召喚師学入門―■■ 〜異種族との対話編[前編]〜
   一分もたたないうちに、二つ…いや三つの影を瞳が捉えた。
   「追いかけっこ・・・な訳ないですよね。」
    年はおよそ12、3といった少女を、二体の巨大な蜘蛛が追いかけている。
   ここ一帯はジャイアントスパイダーの棲家、おそらく少女は彼らの領域に足を
   踏み入れてしまったのだろう。遠目からはよくわからないが、少女の左腕には
   ひっかき傷のようなものが見える。
   

   「戦士を癒し、再び闘争の火種を作らん!『ヒール』!」
    回復魔法唱え少女の傷を癒す。見習い時代に覚えた魔法だが、あの程度
   の傷なら本職ではない僕の魔法でも十分だろう。そしてそれは、蜘蛛たちに
   僕の存在を気付かせ、彼らの敵意を刺激するにも十分のようだった。二体の
   蜘蛛は、どうやら先に邪魔者を始末することに決めたらしい。
   

   「ふん…生憎ですが、僕はそこら辺のウサギとは違いますよっ!」
    死の女神、シーレンが与えたる魔法陣を脳内にて生成する。煩雑に渦巻く
   魔力に一定の指向性が生じ、右手に携えたシャイニングナイフへと流れ込む。
   ナイフの表面に冷たい空気の層ができ、そのまま一体の蜘蛛へと迸る。
   「魔力の結晶よ、熱を奪いて立ちはだかる敵の足を止めろ、アイスボルトッ!」
    冷気に足を絡めとられ、蜘蛛の動きが鈍くなる。もう一体の蜘蛛に意識を向
   け、再び脳内で魔法陣を生成。禍々しい魔力が足元から渦状に掌に流れ込
   んで、術者の殺意を顕現させる。その象徴たるは風。
   

   「荒ぶる風 無慈悲なる刃 敵を切り刻みその血を啜れ ツイスター!」
   



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    詠唱が終了すると同時に、鋸状の螺旋を描く風がもう一体の蜘蛛に襲い掛
   かる。凶器と化した風は蜘蛛の四肢をずたずたに切り刻む…が、絶命させる
   には至らなかったらしい。痛覚というものを感じないのか、四肢をずたずたに
   されながらも、なお蜘蛛は獲物を狙って向かってくる。
   

   「くっ…我が魔力を牙と化し、」
   ―ザクッ!
    予想が外れて一瞬詠唱が遅れてしまった。射程距離に入った蜘蛛の脚が
   右肩に深々と突き刺さり鈍い痛みが奔る。が、耐えられないほどではない。
   「…汝が生命を喰らう!ヴァンパイアリックタッチ!!」
   無数の牙が蜘蛛に襲い掛かり、その頭を喰い散らかす。その牙は今度こそ
   蜘蛛を絶命させ、奪いとった生命力をその主へと送り届けて肩口の傷を癒す。
   「シェェェァァァァ!!!!!」
    しかし、一撃目にアイスボルトを受けた蜘蛛は射程距離に入っていたらしく、
   気が付いた時には獲物を八つ裂きにしようと、すでにその前脚を振り上げたと
   ころだった。
   

   「しゃがんでくださいっ!」
    蜘蛛がしゃべった…のではなく、その背後から誰かが呼びかける。咄嗟に
   その声の指示に従ってしゃがみこむ。
   

   ―ズバァッ!
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