■■―さっぱりわからん召喚師学入門―■■ 〜異種族との対話編[前編]〜 落ちた荷物を全て拾い上げて例を言う。顔を上げると、何故か相手は何の ことだかわからないといった表情できょとんとしている。 ―あれ?もしかして別人? 落ち着いて見ると、先ほどの茶色い鎧ではなく普段着のようなラフな格好を しているし、声の感じもそういえば違っていたような気がする。 「あ…すみません、どうも人違いだったみたいです。あはは。」 ―う〜ん、今日はなんだか笑ってごまかしてばっかりだ。 今日の数々の失態を師匠が聞いたらそのまま破門にでもされかねない勢い だなーと思いながら、足早に立ち去る。 「あ…あのっ!もしかして冒険者の方ですか?」 …つもりが、ドワーフの少女に呼び止められた。 「え…一応、そうですけど。」 はてなと思いつつも、少女の問いに答える。 「すみません、呼び止めてしまって。これも何かの縁ということで、ひとつお願 いしたいことがあるのですけど…」 トラブルに巻き込まれるのは性格か性質か。それとも単に今日という日が僕 を嫌いなせいなのか。ともかく、僕はこの少女の『お願い』を聞くことになった。 「…まるで、僕一人だけがこの世界で唯一の不純物になった気がしますね。」 周囲の景色と自分の褐色の肌を見比べながら、誰にともなく呟く。緑は青々 と生い茂り、木々は生命力に溢れている。空は悲しいことなどまるで一つも |
>TOP >1 >2 >3 >4 >5 >6 >7 >8 知らないかのような澄み切った青い色をしていて、その青い海を泳ぐ鳥たちは 平和なこの世界を謳歌している。時折見かける石の祭壇は最早その機能を 失っていて、過去の栄光は欠片も見い出せないが、その神秘性はなお健在 であり、むしろ意味を失ったことによってより増し加えられている。緑と青とを 基調としたその彩色は、物体が作る影の中ですら乱れずに調和を守っている。 本来なら死の女神たるシーレンの絶望から生まれたはずの魔物たちも、生 まれ故郷の同属たちに比べると凶暴性を失っていている様子で、彼らの領域 を侵さなければ共存すらできるのではないかという錯覚に陥ってしまう。 そんな御伽噺の中の『楽園』を絵に書いたようなこの風景の中では、褐色 の肌はまるで『異質』そのものだ。漆黒と灰色とを基調とした僕という存在は、 影の中ですら現れていた平和の基調を見事に打ち砕いている。この空間で は僕の存在はただ在るだけで極めて不自然であり、例えるなら綺麗に仕上 げた絵画に、不注意でこぼしてしまった珈琲がその景観を崩してしまった様 に似ている。 「…でも、その完璧さがかえって不自然だと思うんですけど、ね。」 エルフ達の住処であるこの場所を綺麗だと思いつつも、どこかに否定的な 感情を抱いてしまうのは、自分自身がその空間からあまりにもかけ離れた、 まるで不純物のように思われるからだろうか。それとも自分の中を流れる血 が、彼らと敵対関係にあるダークエルフの一族のものだからだろうか。 |